監督と脚本家があげた影響を受けた映画+劇中劇 レビュー
『理由なき反抗』
『ヘザース/ベロニカの熱い日』
『ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ』
『ブレックファスト・クラブ』
この中で『ヘザース』だけは見直すことができなかったので割愛(クリスチャン・スレイターとウィノナ・ライダー出演のこの映画、日本では未DVD化。そして劇中に出てくるのは『欲望という名の電車』。
|
『理由なき反抗』Rebel Without a Cause (1955)
現代の視点で『理由なき反抗』を見ると、どうもプラトー(サル・ミネオ)のジム(ジェームズ・ディーン)への視線やジムのジャケットの扱いが怪しい。調べたらそれは同性愛感情という見方がされていた(『セルロイド・クローゼット 』というドキュメンタリーで言及されているようだ)。もちろんそれを前面に出すことはないのでプラトーはジムのことを兄や父親のように慕うという設定になっている。しかしこの二人に加えてジュディ(ナタリー・ウッド)と一緒にいる空き家でのシーンを特典映像の別バージョンで見ると二人の関係はさらに怪しく思える。さらにはこの映画の別エンディングにあるプラネタリウムのドームが締まる様はそれこそクローゼットに秘密がしまわれるかのようだ。
一般的にこの映画がジェームズ・ディーン主演の青春映画になっているのはジムと不良グループ(若き日のデニス・ホッパーがいる)とのナイフ・バトルやチキン・レースが有名だからだが、実はそれ自体が主題にはなっていない。3人の青年と親との微妙な関係が彼等に悪影響を与えていることこそが主題だ。オープニングで復活祭の晩に警察にいる3人、ここでそれぞれの親子関係が手短に説明されている。家庭では母親の方が強く父親にしっかりしてほしいジム、父親との関係がうまく行っていなくて家にいたくなくなったジュディ、父親とは別居し母親は外出しがちで寂しさを紛らわすために子犬を撃っていたプラトー。警察官のレイは父性の象徴で、映画の最後で彼らを説得しようとする。結果的にはそれが失敗し、彼らは親との関係をまた築きなおすのである。
プラトーは中盤で銃を持ち出す。もちろん彼は用心のために銃を持っている。不良と対峙する力すらない彼にとってはそれを持つことによって彼らと対等になろうとするのだが、それが悲劇を引き起こすことは容易に想像できる。彼が不良にではなくジュディに銃を向けたら悲劇性が増して、よりドラマチックになったと思うのだがどうだろう。あと警察の対応も大げさすぎる気もする。(ブログ掲載日時:2008年06月30日)
|
『ヘザース/ベロニカの熱い日』 |
『ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ』Election(1999)
監督・脚本はアレクサンダー・ペイン。この作品で認められ(アカデミー賞脚色賞候補)、2004年の『サイドウェイ』(アカデミー賞作品賞・監督賞他5部門で候補)でさらに高い評価を受けアカデミー賞脚色賞を受賞した。
ヒロインはリース・ウィザースプーン。彼女が生み出した最高のキャラクターといえば『キューティ・ブロンド/LEGALLY BLONDE』シリーズのエル・ウッズとこの映画のトレイシー・フリックに尽きる。
リースが演じるのは自己主張の強い優等生トレイシー、彼女は当然のように生徒会長選挙出馬する。生徒会担当の教師ジム(マシュー・ブロデリック)は彼女がかつて同僚の教師デイブと関係を持っていたのに平然としている姿を見て、このままではいけないと思い、けがで部活ができないアメフトの人気選手ポール(クリス・クライン)を担ぎ出す。そこにポールの妹タミー(レズ)まで出馬して選挙は混乱する。トレイシーとポールの共通点は自分のことが分かっていない点。数々の生徒会活動をしてきたトレイシーは生徒会会長になるのは当然と思っているがそう思っているのは本人を含めた数人だけだ。一方ポールはアメフトの人気選手として何の不自由のない学生生活を送ってきたが、そのブランドを剥ぎ取ってしまえばほとんど魅力はない。トレイシーはそれに薄々気付きながら前に進むしかない。ポールはそれに気付かないが、それでも彼は幸せだ。監督もお気に入りだと言うタミーは変わり者に見られるが二人と比べると自分に正直で、自分がどう見られているかも知っている。
この映画をよく見ると生徒はほとんど損をしていない。ただひとりタミーだけが罰を受ける。学校からは停学の処分を受け、両親からも愛想を尽かされ(彼女は養女)転校することになる。しかしそれは彼女にとっては都合の良いことになっているのが面白い。選挙中に問題を起こしてミッション系の女子高へ転校し、新しいガールフレンドを見つける。この映画で一番美しい結末を迎えるのは彼女だ。それに対して損をするのはデイブにジムと教師側と皮肉が効いている。
生徒会会長選挙を持ち出して高校内の階層を浮かび上がらせると言うところまでは行っていないが、生徒会活動に熱心なトレイシーが母子家庭で、ポールの家は地元企業の経営者というのが(やや単純化されているが)面白い。学校にいるときと家に帰ったときでは立場が違ってくるのだ。また同性愛に関しては暗く描かれておらず、隠すか公言するかを迷う様子も、当事者以外に彼女の趣向が知られて問題になることもないのはやや都合が良すぎるかもしれない。
|
『ブレックファスト・クラブ』/The Breakfast Club (1985)
登場人物は休日登校し図書館で反省文を書かされることになった人気者女子(モリー・リングウォルド)、不良(ジャド・ネルソン)、スポーツマン(エミリオ・エステヴェス)、優等生男子(アンソニー・マイケル・ホール)、変わり者女子(アリ・シーディ)の5人。五つの駒を動かすのは大変なはずだが、脚本家でもあるジョン・ヒューズ監督にとって挑戦しがいもあっただろう(奇数なので男女関係ではひとり余ることになる)。
オープニングではデヴィッド・ボウイの「チェンジス」の歌詞が引用され、落書きの中には銃乱射事件に関する歌であるブームタウン・ラッツの「I Don't Like Mondays」(邦題:哀愁のマンディ)のタイトルがある。音楽全体は大ヒットした主題歌のシンプル・マインズの「ドント・ユー」があるくらいだから80年代ど真ん中だが、思ったよりしょぼくない。
そのオープニングは学校での5人のことが分かるような画をさらりと見せ、さらに登校の様子で彼らの置かれた立場が分かるようになっている。登校時に親との会話がある3人はそれぞれのプレッシャーを親から受けている。不良だけは歩きで登校する。初見で気付かなくても2回目以降なら、優等生の車のナンバーがECM2(E=MC2)だったり、用務員のカールが優秀な在校生だったりしたことが分かる。もちろん画だけで語られる5人それぞれの立場もよりよく理解できる。
前半は不良が場を乱す展開が続いてやや飽きるが、昼食のシーンが面白い。スポーツマンの食事はいかにも体力をつけるためのそれ、そして優等生男子のは母親が一所懸命作った昼食になっている。それに対して人気者女子はしょうゆを持ち込んでのスシ。ヘルシーーフードでおしゃれっぽいが、周りの反応を見るとこのころはまだ珍しかったようだ。しかしなんと言ってもここではマンガ的な変わり者女子の食事に尽きる。パンにシリアル(?)と砂糖を大量にまぶして食べるとはやり過ぎだ。
さて物語は不良が自分のロッカーからマリファナを持ち出して回し飲みするあたりから動き出す。それまで各自が張っていたシールドが徐々に剥がれるように、自分自身のことを曝け出す様子がスリリングだ。スポーツマンと優等生男子は親からのプレッシャーを強く感じていることが分かる。エミリオ・エステヴェスは父親がマーティン・シーンだけにこの設定にうまくなじんでいる。また人気者女子の「人気者でいるのも辛いのよ」という高飛車な態度には怒りを感じるが、なぜか許せる。そしてポイントは学校に銃を持ち込んだ優等生男子となる。ここで"I Don't Like Mondays"の落書きの意味がはっきりとしたわけだ。もちろん彼が学校で乱射したわけではないが、銃を持ち込みたくなる不安というものはよく描けている。
当然この場では仲良くなった5人だが、「月曜日に会ったら、どうする」との問いにすぐに「何言ってんだ!友だちじゃないか」という展開にならなずにそれぞれの立場で物事を考えるのはリアルだ。(ブログ掲載日時:2008年08月28日)
|
『欲望という名の電車』/A Streetcar Named Desire(1951) 『Dare』劇中でアレクサたちが演じている劇はテネシー・ウィリアムズの『欲望という名の電車』、エリア・カザンによって1951年に映画化、男女主演助演の4人がアカデミー賞にノミネートされ、主演男優以外の3つを受賞している。しかし受賞を逃したマーロン・ブランドがまずエロい。(バージョンによっては)DVDのカバーに彼一人が出ているのも納得できる。そしてブランド演じるスタンリーの夫、ステラ(キム・ハンター)は地味だが、それがいい。主演女優は妹夫妻のニューオーリンズの家に入り込むブランチを演じるヴィヴィアン・リー。貧しい家庭にお世話になっても気位が高いままで上品そうな服を着込むブランチ、このオールドミスの見栄や嘘が徐々に暴かれ、彼女の精神状態が不安定になってゆく姿がよく描かれている。秀逸なのはブランチに好意を寄せていたスタンリーの友人ミッチ(カール・マルデン)の目の前で彼女の嘘がばれる場面、それまでは薄暗い明かりの元でしか会わなかった二人だが、明るい照明が老けたブランチの姿を映し出すところだ。ここでは白黒映画だというのも効果的だと思う。劇中前半のアレクサの力不足なのは当然。(ブログ掲載日時:2008年06月30日) |